
全敗部に、軍師が来た
頭脳バトル部 きみの一手・第1話
むりょう・12場面
放課後の第二理科室に、一枚のプリントが貼り出された。『頭脳バトル部——今大会で一勝もなければ、廃部』。部長のイブキは、去年の地区予選で全敗した。だれよりも早く来て、だれよりも遅くまで盤とにらめっこして、それでも勝てなかった。イブキは大きく息を吸うと、ほこりをかぶった作戦ボードを、くるりとこちらへ向けた。「きみ。きみが、うちの軍師だ。」

「はじめまして。記録係のサヤ」。差し出されたノートは、レンガみたいに分厚い。去年の全敗が、一手も欠かさず書きとめてある。「新作ゲーム選手権はね、種目が当日発表なの。つまり、練習じゃ強くなれない」。サヤはめがねを押し上げた。「でも、負けた記録はうそをつかない。軍師さん、これはあずける。うちの部の、たった一つの宝物」

大会の朝。市民ホールは、色とりどりのユニフォームでうまっていた。『本日の新種目——ミツボシ!』ステージの幕が上がる。ルールは三つだけ。こうごに、あいているマスへ、自分の色の石をひとつ置く。たて・よこ・ななめ、先に三つならべたら勝ち。置いた石は、もう動かせない。「あそこ、去年の全敗チームだって」。どこかから、くすくす笑いが聞こえた。イブキの耳が、赤くなる。

初戦。イブキは気持ちよく攻めた。まっすぐ、まっすぐ、三つならべに一直線。——そして、あっさり止められた。気づいたときには、相手の三ツ星が、ななめに光っていた。「……ごめん」。うつむくイブキの横で、サヤのえんぴつは止まっていなかった。勝った相手の一手も、負けた自分たちの一手も、ぜんぶノートに並んでいく。この負けは、まだ宝物になっていない。

昼休み。作戦ボードに、初戦の記録を並べてみる。相手だって、ミツボシは今日がはじめてのはずだ。なのに、どうして迷いなく止められたんだろう。「ルールはみんな同じ。だったら——」サヤが小さくつぶやいた。「強い人は、盤じゃなくて、相手を見てるのかもしれない」。ボードの上で、負けた一手たちが、並べなおされるのを待っている。

二回戦の相手が発表された。鏡センパイ。去年のベスト4で、今年の優勝候補。サヤのノートには、今日の鏡センパイの三局が、もう書きとめてあった。三つの盤面を、横に並べて、ながめる。……なにかが、引っかかる。三局とも、まったくべつの展開なのに、どこかが同じ気がする。その「どこか」が、まだ言葉にならない。

二回戦、開始。鏡センパイは、強かった。イブキがねらいを作るたび、次の一手で、ぴたりとふさがれる。一つねらえば、一つ止められる。盤の上で、青の道がどんどん細くなっていく。残り時間、三分。イブキの指が、盤の上で止まった。会場のざわめきが、すうっと遠くなる。

作戦タイム。サヤが、鏡センパイの今日の三局を、ボードいっぱいに広げた。「見て。青の最後の一手に、印をつけたよ。そのすぐあとに、赤がどこへ打ったか——ほら。となり。こっちの局も……となり。三局目も——」。三つの盤の上で、同じ形が、三回。ばらばらに見えていた三局が、急に、一本の線でつながった。

「見つけた。……ぴったり癖だ」。鏡センパイは、こちらの最後の一手の“となり”に、必ず打ち返す。反射みたいに、必ず。イブキは大きく息をはくと、作戦ボードをくるりとこちらへ向けた。「ねらいが一つなら、ふさがれる。でも——ねえ、きみ。ねらいが、ふたつあったら?」再開のブザーが鳴る。「一手、あずけた。」

盤にもどる。青の石は、ななめに二つ。赤も、二つ。置ける場所は、三つ見えている。まもりの一マス——安全だけれど、一歩おくれる。一直線の一マス——ねらいは強いが、たった一つ。そして、まん中よりの一マス。そこに置けば、たての柱と、よこの列。ねらいが、ふたつ同時に生まれる。ぴったり癖は、となりにしか打てない。……ふたつのねらいの、どちらの“となり”に?

作戦ボード・最終盤面
決め手の一手
青はきみのチーム。光っている三つのマスが候補だ。マスか、下の札を押して、一手を置こう。
- こうごに、あいているマスへ自分の色の石を置く
- たて・よこ・ななめに三つならんだら勝ち
- 置いた石は、もう動かせない
ぴったり癖: 相手は、きみの一手のとなりに必ず打つ
イブキの指が、青い石をつまんだまま、うかんでいる。会場は、静かだ。ぴったり癖——となりに、必ず。それなら答えは、もう盤の上に見えているはずだ。きみの一手を、置こう。