
30ねんまえの おとしもの
ゆうやけチャイム・第1話
むりょう・7場面
えんがわの 下の くらがりの おくで、なにかが オレンジいろに ひかって います。ころがった ビーだまを おいかけて、もぐりこんで 見つけたのです。なつやすみ さいごの 日よう日。ママは あさから かたづけで、『あとでね』ばかり。——そのとき、まちに ゆうやけチャイムが なりはじめました。ひかりが、ふわっと つよく なります。ちりん。ひかりの おくで、ちいさな すずの 音が しました。

くぐりぬけた さきは、おなじ にわ。でも、どこか ちがう。えんがわに かとりせんこうの けむり。ものほしに、見たことのない たらい。そして かきの木の 下で、おんなのこが ないて いました。『おまつりで あてた、きんいろの すず……おとしちゃったの』ハルは むねを ぽんと たたきました。『だいじょうぶ。ぜったい みつかるよ。わたし、さがすの とくいなの』そらでは、まだ チャイムが なって います。

ふたりは にわを さがしました。えんだいの 下、あさがおの はちの うら。ポケットからは、おりがみの カエルが ぴょこんと とびだします。そのとき、へいの むこうから こえが しました。『サキちゃーん、また あしたー!』サキ。それは、ママの なまえです。おんなのこが 手を ふって わらうと、みぎの ほっぺに えくぼが ひとつ。ハルの しんぞうが、とくん、と なりました。この子——ママだ。

ハルは、いいませんでした。いえない かわりに、手を つなぎました。いつも ママが してくれる みたいに、つよく、あったかく。『すずを さいごに ならしたのは、どこ?』『いどの よこの、大きな いしの 上。ちりんって、いい 音が したの』ゆうやけが、どんどん こく なります。ふたりの かげが、にわに ながく のびました。はしれ、はしれ。チャイムが おわって しまう まえに。

大きな いしの まわりを、ふたりで さがしました。くさの 根もと、いしの すきま。——どこにも ない。そのとき、チャイムの さいごの 音が、そらに すいこまれました。ハルの からだが、ふわりと かるく なります。『まって、まだ……!』サキの なきごえが、とおく なる。ハルは さけびました。『ぜったい みつけるから! やくそくだよ!』気がつくと、えんがわの 下。てには、ビーだまが ひとつだけ。

むかしの にわにも あった ものを、三つ さがして とんとん! のこり 3こ
いまの にわは、ゆうやけの おわった あおい いろ。でも、ハルは きづきました。むかしの にわに あった ものは、30ねん たった いまも、ここに ある。きみの 目で 三つ さがして、とんとん!それが、すずの ありかへの ちずに なる。……そう、あの 大きな いし。サキが さいごに すずを ならした ばしょ。ハルは いしの 根もとに しゃがみこみ、つちを ほりはじめました。

つちの 中から、ちいさな すずが 出て きました。きんいろは、みどりいろに かわって いたけれど——ちりん。ちゃんと、なりました。えんがわで、ハルは すずを さしだします。ママの 手が、ぴたりと とまりました。『……おまつりの すず。あの日、しらない おんなのこが、いっしょに さがして くれたの。ぜったい みつけるから、って』ママは なにも きかずに、ハルを つよく だきしめました。
ゆうやけの しおり・1
30ねんを こえた やくそく

- その よる、ママは 7さいの はなしを、ねむるまで して くれた。『あとでね』は、いちども 出なかった
- 『ぜったい みつける』の やくそくは、30ねん たっても きえて いなかった
- にわの 石や 木や いどは、かぞくの じかんを おぼえて いる
- おりがみの カエルは、かみ 一まいで できる むかしからの あそび。おしりを ゆびで おすと、ぴょんと とぶ
- そして——ゆうやけチャイムは、あしたも なる。こんどは、だれの 7さいに つながるのだろう
