
「かして」の かけら
きみと せーの・第1話
むりょう・7場面
「か……」うたの のどの おくで、ことばが とまりました。すなばの まんなか。トンネルを ほる たびに、うたの すなやまは さらさら くずれて しまいます。となりでは、あかねちゃんが あかい スコップで、ぺたん、ぺたん。かたい すなケーキを つくって います。——かして。いいたい ことばは、たった 三もじ。なのに、いえた ことは、いちども ありません。そのとき。ぱりん。ちいさな 音が して、ことばが われました。

ぱりん、と われたのに、いしでは ありません。三つの うすい ひかりには、おもさも、おちる 音も ありません。すなに あとも つけず、あかい スコップ、トンネル、すなケーキの そばで、しずかに ひとつずつ かくれました。……見えたのは、この おはなしの こちらがわに いる、きみだけ。うたは しりません。うたは ただ、うつむいて、じぶんの すなやまを 見つめます。きょうこそ、あなの むこうで、だれかの ゆびと こんにちは って したかったのに。手で ほると、すなは さらさら、さらさら。

うたは、いっかいだけ、いって みました。「か、かし……」こえは、ありさんより ちいさくて、かぜの 音に まぎれて しまいました。あかねちゃんは、ふんふん はなうたを うたいながら、ぺったん、ぺったん。あかい スコップは、青い バケツの よこで おひるねちゅうです。うたは くるりと うしろを むいて、いいました。「……べつに、いらないもん」むねの おくが、ちくっと しました。

「あかねー! そろそろ かえる じかんよー」こうえんの いりぐちから、あかねちゃんの ママの こえが しました。「はーい!」あかねちゃんが、すなを ぱんぱん はらって、かたづけを はじめます。うたの むねが、ぎゅうっと なりました。かえっちゃう。ことばは、のどの おくで まるく なった まま。——そのとき。すなの 上で、なにかが ぴかっと ひかりました。

ことばの かけらを、三つ さがして とんとん! のこり 3こ
ひかったのは、われた ことばの かけら。かけらは、いいたかった きもちの そばに かくれるのです。きみの 目で、三つ さがして、とんとん! そろえば、ことばは もういちど、こえに なれる。いそいで——あかねちゃんが かえって しまう、その まえに。

かけらは、うたの 手の 中で ひとつに つながって、あたたかく ひかりました。うたは、すっと いきを すいこみます。でも、ひとりでは、まだ すこし こわい。だから——きみの こえも、かして ほしい。あかねちゃんに とどくように、おおきく いくよ。

「かして!!」うたの こえに、もう ひとつ、ちいさな こえが かさなりました。あかねちゃんが、ふりむきます。「いいよ!」それから、もじもじ しながら いいました。「ほんとはね、わたしも 『いれて』って、ずっと いいたかったの。トンネル、すごいなあって」いりぐちで、ママが わらいました。「じゃあ、トンネルが できるまでね」バケツの みずで しめらせた すなは、もう くずれません。うたは こちらの いりぐちから。あかねちゃんは、むこうの いりぐちから。ふたりで そっと 手を いれました。見えない トンネルの まんなかで、ゆびさきが こつん。ゆびと ゆびが、こんにちは。
いえたよ ずかん・1
はじめての 「かして」

- その ばん、うたは おふろで 三かい いいました。「かして」。もう、われない ことば。
- 「かして」の おくには、「いっしょに あそびたい」が かくれて いた。あかねちゃんの 「いれて」も、おなじ きもちだった
- ひとりで いわなくても、だいじょうぶ。『いっしょに せーの』で、こえを かりても いい
- すなの トンネルは、みずで すこし しめらせると くずれにくい。こんど すなばで ためして みよう
- そして——ことばは、これからも ときどき われる。つぎに ことばが われたら、また きみを よぶね
